母の帯




小町通りには春の日がふりそそぎ


しろく光るその道を歩いていると


古い着物を売っている店を見かけました


店先には


今でこそ アンティーク着物とか言って


若い人たちに流行っているようですが


とても古い柄の着物や帯が並んでいました


手にとって見た帯は


とても華やかな花の模様の帯でしたが


生地などはとても柔らかくて


日常着物を着ていたその時代が偲ばれる物でした




ふと


母の 帯を思い出しました


オレンジ色の濃淡の鹿の子模様の帯


まだ 私が生まれた家の頃の記憶ですから


母も まだ30歳を出たばかりだったのでしょう


春の朧のようなその記憶のかなたで


すらりとした母はとても綺麗で


何処かへ出かけるしたくをしていたのかどうか


私はその帯を締める母を


憧れのような気持ちで見ていたような気がします




それから何年もたった頃


やはり ふとその帯を思い出して聞いたことがあります


そういえば


あの 鹿の子模様の帯  どうしたの?



母は悲しそうでした


あの帯は父に買ってもらった大事な帯だったけど


お米に変わっちゃったの・・・と



私の大好きだった帯


いつかは 自分も締められるのかと


決めていた・・そんな帯



知らないこととはいえ


自分の胃袋に納まってしまっていたなんて・・





真昼の小町通は


人が賑やかに往来していましたが


時間が止まったかのようでした