さくら横丁


もうすぐ3月


そうして桜が咲き始めると
新しい出会いと、別れの季節になる。


ほんとに半世紀も昔の思い出ばなしです。


高校を卒業して、4月
ある県の初級試験に合格していた私は
県庁で辞令交付を受けた。
何処に行くのかと胸をドキドキさせていたけれど、
家の近くの県税事務所に配属がきまり、なんとなくしょぼくれていた。
若い娘だもの
大きなビルで働きたかったし、せめて都会に出たかったのに。
交付式の後、各事務所から迎えの人が来てくれて、車で配属先に向かった。


一緒に配属されたのは男2名 女1名(私ね)
しょぼくれてはいたけれど、そのうちの一人が 今でいう超イケメンで
まぁ、それくらいの良いことはなくちゃ・・なんて不謹慎に思っていた。


古びた事務所は、若い娘を意気消沈させるには十分だったけれど
アットホームな雰囲気で、慣れるにしたがって居心地がよくなって
同期の3人はそれなりに仲良くしていたのに、
そのうちの一人が仕事が合わないと
Ⅰ年くらいで退職してしまった。
超イケメン君とも仲は良かったけれど、仲良しなだけで何も発展せず、
そうして2年が過ぎたころ、私は本庁に転勤が決まった。
20歳を過ぎたばかりのイケメン君はお金をためて車を買った。
「車を買ったら、乗せてよね」の約束
一度だけ 最後の日に事務所から駅まで乗せてもらった。


真っ赤なカローラ・・青春だね!


それっきり、イケメン君とは会うこともなかったが、
年賀状のやり取りだけは続いていて
ずーっと経って夫が亡くなり
告別式で私を見て、ずいぶんと驚いたようだった。
夫の部下だったことも、私がその妻だったことも
お互い知らなかったのだもの


今でも、年賀状のやり取りだけ
必ず、〇〇に来た時には声をかけてと書いてあるけれど
一度もあったことはない


懐かしい人だけれど、一緒にいたのはたった2年
もうちょっと大人になるまでいたら、
恋人同士になれたかしらん?
なんて
くすっとなる


たぶん、亡くなるまで会うこともなく過ぎていくのだろう




さくら横ちょう 井原義則 2009